英語上達の要件をひとつあげるとしたら、なんだろうか。記憶力だろうか。もしそうなら、四〇歳以上の人間に勝ち目はない。だが、記憶力抜群でもたいして英語がうまくない人は大勢いる。なぜうまくなれないのか。一生懸命やらないからだ。記憶力抜群の人が一生懸命やったら、上達まちがいないはずなのに。では、なぜ一生懸命やらないのか。やる気が起きないからだ。やるべきこと、やりたいことが、ほかにいっぱいある。嫌いだ。きっかけがない。理由はさまざまだろうが、ともかく、やりたいとは思わない、やる必要があまりない。だから、それほど一生懸命になれない。「やりたいと思う」「やる必要がある」、つまり、その人間を英語学習という行動に駆り立てる動機づけ。これこそ、もっとも重要な要件ではないだろうか。動機づけは強いに越したことはない。極端な話、英語ができないと殺されるとなったら、大半の人は必死でやるだろう。やり方がどうの、教材がどうの、と言っているゆとりはない。そこまで極端でなくても、それに近い動機をもった人、もたざるをえない人、つまり英語ができないと生活できないという人は、今後増えていくだろう。では、動機づけが強い人のほうが、あまり強くない人より絶対的に有利だろうか。必ずしもそうとはかぎらない。わたしの場合、動機づけの強さは中程度だったと思う。専業主婦だから、英語ができなければ生きていけないとか、まわりから非難されるということはなかった。むしろ、いまさらやったってなんになる、という視線のほうを感じたものだ。また、将来留学をする、などという予定もなかった。英語をはじめて二、三年たってからオーストラリアに行ったのも、たまたまそうなっただけで、英語をはじめたときは予想していなかった。しかし、このまま歳をとり、のんびり日向ぼっこしながら孫に囲まれてお茶を飲んで暮らす、という老後を思い描くと、あまりぞっとしなかったのだ。そういう老後が悪いというのではない。わたしの母は、そうやって暮らしたいとロ癖のように言っていた。第二次世界大戦の激動期を生きてきた人がそういう希望をもつのも無理はない。それに、性格的なこともかかわってくるだろう。わたしと母は、これが母娘かと思われるほど性格がちがうのだ。
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