「苦しい時の患者さんは、元気な時の患者さんとは変わってしまうものですから。気持ちの中では残していく人のことが心配でも、それが伝えられないくらい、混乱していたのでしょう」私は、そう言葉を返すことしかできませんでした。この先彼は、この問いを何度も自分に繰り返しては、様々な思いに囚われるのでしょう。妻の死の瞬間、しっかり娘の手を握り、自分自身の悲しみに耐えていた夫の姿が、目に浮かびます。亡くなる前の彼女の姿は、夫や娘にとっては、本当につらい形になっていました。しかし彼女自身にとってどうだったかと考えると、また違った答えが出るような気もするのです。ただただ夫にあたり散らして逝った彼女。それはそれでもちろん深い苦しみがあったのでしょうが、他人への気遣いや遠慮をかなぐり捨て、最後は自分のことだけに集中してしまったからこそ、逃れられた憂いもあったのではないでしょうか。